梅雨の金沢駅周辺を歩く日曜日恒例の夫婦の朝活散歩。
夫が語る街の昔話に耳を傾けながら、安江町にある「謎屋珈琲店」へ。
私たち夫婦で初めて入るカフェ。少し不器用で愛おしい、ある朝の記録です。

梅雨の金沢駅裏を歩く
梅雨特有の肌にまとわりつくような湿気。
日曜日、まだ街が完全に目を覚ます前の金沢駅周辺を、私たち夫婦は歩いていた。
一歩進むごとに、じわりと汗が滲む。
前回の朝活では安江神社の方角へ向かったが、今回は別院の正面側へと足を向けた。
「昔はここ、アーケードやったんやぞ」 「この辺りも、ずいぶん変わったなぁ」
夫の視線の先には、私には見えない「かつての金沢」が広がっていた。
彼の実家は金沢の東側。
東茶屋街や駅東の景色に触れるたび、記憶の引き出しが次々と開いていく。

私はただ、「へぇ、そうなんや」と相槌を打ちながら、彼の言葉に耳を傾ける係だ。
静寂に包まれた朝の街で、夫の語る昔話を聞きながらカメラを片手に歩く。
この穏やかな時間が、最近の私のお気に入りになっていた。
時計を見る。
予定していたコースを一周したものの、目的の店の開店にはまだ少し時間があった。
以前の私たちなら「車の中で待とうか」と言っていただろう。しかし、今の私たちは違う。
「じゃあ、もう一周歩くか」
自然とどちらからともなく足が進む。朝活を始めてから、私たちはほんの少しだけ、歩くことを楽しめる大人に成長したのかもしれない。
迷い込んだ謎の空間。夫婦、はじめての「カフェデビュー」
二周目の散歩を終え、ついにその時が訪れた。
今回のお目当て、安江町に佇む「謎屋珈琲店」。
以前から気になっていて「今度はここへ行こう」と夫婦で硬く約束していた場所だ。
実は、私たち夫婦にはひとつの秘密(というほどでもないが)がある。
二人きりで「カフェ」と呼ばれる場所に足を踏み入れるのは、これが人生で初めてなのだ。
コーヒーチェーン店なら、それこそ数え切れないほど行った。
私は娘や友人に連れられてカフェ経験が少しはある。
しかし、夫にとって「カフェ」は完全に未踏の領域。
お店の前に到着した途端、二人の足がピタリと止まる。
(本当に、入っていいのだろうか……)
言葉にしない、妙な緊張感が二人の間に漂う。
入り口の前で少しモタモタしてしまうあたり、初心者特有の初々しさ(不審さ)が出ていただろう。
だが、意を決して扉を開けると、そこには静かで落ち着いた世界が広がっていた。
(普通に入りやすかった)
朝の時間帯ということもあってか、店内にはシニアのお客さんの姿も多い。
張り詰めていた肩の力が、すっと抜けていくのが分かった。

丁寧に淹れられたコーヒーは、じんわりと身体に染み渡る美味しさだった。
「また、来たいね」 どちらからともなく溢れたその言葉とともに、私たちの記念すべきカフェデビューは大成功に終わった。
健康への航路、いつの間にか「美食の迷宮」へ
至福のコーヒータイムを終えた私たちは、いつものようにパン屋巡りへと向かう。今回は金沢駅にある「ドンク」へ。
しかし、ここで私たちは残酷な現実に直面することになる。
健康のために始めたはずの朝活。
しかし今、恐るべき事態が起きていた。
なんと、私が2キロ、そして夫にいたっては4キロも体重が増加していたのだ。
たかが数キロ。しかし、鏡の前のシルエットは明らかに「それ」を物語っている。
原因を突き止めるのは容易だった。
毎週、素晴らしいモーニングを堪能し、その足でパン屋に寄り道し、魅力的なパンを買い込み、帰宅してまた食べる――。
これは「健康活動」などではない。ただの「グルメツアー」だ。
「さすがに、これはまずい」
私たちは引き締まった(引き締めたい)意志を胸に、今回は娘の家に寄るのをやめた。
パンも次男へのお土産だけにとどめ、自分たちの分はぐっと我慢した。
どうやら今のところ、私たちの朝活は「健康」よりも「食欲」の方が、数枚上手の上手のようである。

次なる作戦会議。三日坊主夫婦の夏が始まる
これから本格的な夏がやってくる。
容赦ない暑さを避けるためには、さらに起床時間を早めるべきか、
あるいは日陰の多い散歩コースを開拓すべきか。
移動時間が長くなれば、暑さのせいで些細な小競り合い(夫婦喧嘩)が勃発するリスクも高まる。
さらに私たち三日坊主夫婦にとって、朝活のモチベーションである「モーニング」だけは絶対に死守しなければならない条件だ。
快適な夏を生き抜くために、我が家では再び作戦会議が開かれようとしている。
理想の健康体にたどり着くまでの道のりは思ったよりも険しく、
そして何より美味しさに満ち溢れている。